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(差異が)死んだ後、鳥(の反復)になれたか?

2010.06.30

前回は、テレビドラマが、明治以後の近代文学を総括しようとして、死んでしまったというお話をしました。推敲しましたので、もう一度、読んでいただけると幸いです。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1502632934&owner_id=6746584

ところで、なぜかテレビドラマと映画は対照的です。たぶん、映画が単発なのに対して、ドラマが連載という形式の違いからくるのでしょうが、日本映画は、ある地点で、現代音楽と結託して、フリーズしてしまいました。今はその後で、むしろテレビのほうがフリーズしているわけですが・・・。

たまたま、マイミクさんの日記
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1504130796&owner_id=24706476

に、オーレルニコレの武満徹AIRの動画が紹介されていました。Youtubeなんでもありますね。村松9Kを吹いてるそうです。この小品が武満の遺作となったのでしょう。遺作が必ずしも最終型ではないとはいえ、武満の捉える「日本」の音の最終型は、笛の音でなければならなかったのかもしれません。

ジャズという音楽も終わってしまっているんですが(というより差異から反復に突入してしまったんですが)、ジャズが差異だった最終型も、じつはジャズのメインストリームの楽器(ホーンやピアノ)ではなく、ジャズ楽器のアウトサイダーであるフルートだったように思えます。

それは、ジャズがトラッドからイディオム(コールされたら、どうレスポンスするかという)でがんじがらめになったとき、そこから逸脱するためには、笛の音を必要としたのです。

そのアヴァンギャルドはコルトレーンで有名ですが、そこから突出して差異化しているのが、ご存知エリック・ドルフィーのYou Don't Know What Love Isの名演です。

あの演奏では長い前奏がつきます。現代音楽のようですね。このまえのジャズバードライブでMCで紹介しましたが、あのエリック・ドルフィーのイントロは、オリビエメシアンを練習していて、ついやってしまった、という感じなのかもしれません。

私はメシアン的な差異化は個人的にあまり好きでないので、イントロつけるとしても、あれほど過激にはできないんですが・・・・(汗)。

http://www.youtube.com/watch?v=8e4JafZboy8


ヨーロッパ音楽にとっても、じつはフルートは部外者(アウトサイダー)です。フルート音楽をやる人は、フルートであらゆる表現を盛り込もうとするので、忘れてしまいがちなのですが、しかし、交響曲や管弦楽にとっても、あるいは室内楽にとっても、フルートは異質なポジションです。

しかし、そのクラシック音楽がドビュッシー以降煮詰まり始めたとき、打開させたのがフルート的な音色を、フルート以外のピアノでも表現しようとした、メシアンだったように思えます。これがいわゆる現代音楽というジャンルの起こりでしたね。

武満徹といえば、現代音楽の巨人で、民族性を超越してグローバルな音楽ですが、彼が最後に帰着したのはやはりフルートだった。そしてニコレでなければならなかった、という気がしました。

私、クラシックのフルートは好きでないのです。先程書いたように、クラシックにとってアウトサイダーのフルートのくせに、フルート音楽の人たちは、フルートですべてを表現できると過信してしまっている(フルートだけになってしまう人たち、音楽界の変人です)。

私の苦手なフルーティストの代表は、ジェイムズゴールウェイです。彼はフルーティスティックすぎて、音楽をデフォルメさせてしまう。フルートの存在を突出させようとして、音楽を歪める代表格です。フルートをひけらかすために音楽を止めてしまいかねない。あれは音楽に聞こえません。

そこをいくと、ニコレというフルーティストはフルートのなんたるか、をわかった上でやっている。彼の無伴奏バッハものは、フルート音楽の頂点でしょう。

ちなみに、クラシックという点でも、フルーティズム(フルートのウマさ、存在感)という点でも、ヒューバートローズのほうが、フルートは上手いと思います。フルートが弾き飛ばされるはずのところで、彼はしっかり存在できるし、彼の超絶的なアティキレーションを真似できるフルーティストは世界にはいないと思います。

フルートは、アンブッシャーや歯並びという口腔の向き不向きに左右されますので、よほどフルート向きな身体をしてるのかもしれません。一日12時間は練習しないと維持できないので、ヒューバートローズはツアーをOKしない、というので有名ですが、練習だけではないと思います。

そのヒューバートローズは明らかに、エリック・ドルフィーを打ち消そうとしてますよね。意識的だと思います。整理すると、エリック・ドルフィーはジャズのイディオムから自由になろうとして、アヴァンギャルドをフルートで表現した。これはメシアンなどもヒントにしないとならなかった。

ところがヒューバートローズは、フルート的に恵まれてたからか、それをしないでも、存在感を出せた。それがCTIサウンドをはじめとする、70年代以降のジャズシーン、つまり「反復性」を重視した音楽です。ヒューバートローズ的なフルートは、CTI的な反復には不可欠ですから。

その同じ時期、じつは日本では、映画と現代音楽が一緒に仕事していたんです。たとえば、任侠物でも、大映のポルノものでも、ぜんぶ武満の音楽の模倣だらけ。大映の「おんな牢」という田村正和主演の女囚エログロは、武満的オドロオドロしい現代音楽満載です。地獄絵図ものなのですが、どうやら武満的世界は地獄を喚起するみたいです。

そして、日本の映画といえば黒澤ですが、彼の遺作だったかな?の夢という映画では、ロリコンがこれでもかと映像化されるのです。

このロリコンを表現するときに、武満的な音が必要になるのです。地獄の描写とそこからのカタルシスとしてのロリコンなんだろうか?と思えるほどです。NHKが武満が亡くなる直前だったかに、武満の映像詩という番組をつくったと記憶していますが、これもメシアン的な音楽で、日本の少女を映像化していました。

つまり、日本では映画はロリコンに帰着してフリーズしてしまいます。まさに少女の静止画が日本映画なの?とおもえるぐらい。私がピグモン系とよんでるジャンルですね。

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1469684413&owner_id=6746584

それとは逆に、70年代から日本のテレビドラマは成熟し始めて、ストーリーの可能性に向かったのです。このテレビドラマによって、各民放は各々のタッチを確立して、日テレらしさとか、TBSらしさ、とかいう具合になっていった気がします。

その日本の民放テレビらしさのようなものが、前回の日記の通り「彼女が死んじゃった。」で、まさに死んじゃった、ということなのかな、とおもいました。そういうパースペクティブが見えてくるんです。

ところで、現代音楽の一つの頂点武満が、笛の音によって差異を極限まで見出そうとしていましたが、同じく映像と無縁でなかった他の作曲家は、意外に反復に落ち着こうとしていました。

私の好きな映像に、日本空からの縦断というシリーズがあります。電通かなにかが趣味的に制作した作品で、空撮画像に各巻別な音楽家を起用して映像詩化させようとしている。電通の誰かがこういうのが好きだったのでしょう。九州の巻は、なんとキース・ジャレットのオリジナルソロピアノでした(あまりよくなかったんですが)。

少女や女性をオブジェにしようとした武満や黒澤とちがって、鳥になって日本に郷愁するんです。風景を見る方が少女を見せられるより、よほど萌えます。自分が女性になれるんですから。

空から縦断のサントラで、私が好きなのは、この服部克久の反復しはじめようとする音楽です。CD化されてないようで残念ですね。日本の田舎の風景を空から眺めて、独特な郷愁の渦に囚われていきます。地獄から天国に解き放たれるようでクラクラします。

笛で鳥を模倣して、音楽を差異化しようとすることと、鳥そのものになって郷愁を反復し始める音楽。なんか妙な邂逅ですね。鳥になるために差異化するのか、鳥のつもりで反復するかという。坂本龍一教授のスコラという音楽番組が強調していたように、今の音楽はすべて反復です。つまり鳥になりきらないとならないのです。

たまに共演させていただく北條直彦氏は、芸大作曲出身の現代音楽の作曲家でもありますが、数年前私がフルートを吹いていたら、30年ぶりに中川昌三がきてしまった。彼は私を見るとフルートをしまって、サックスばかりふくようになってしまったんですが、北條さんが中川氏のために現代音楽のフルートを書きたい、というので、いろいろアドバイスを求められたことがあります。とくに武満的なフルートの現代奏法の記譜法の問題など、いろいろ質問されました。

中川氏といえば、おそらく天才的な現代音楽のフルーティストでしょう。彼にしか出せない音がありますから。それで、北條さんが中川氏と、現代音楽のプロジェクトをスタートさせたようなのですが、異音となるように、差異化してほしくない、というのが個人的な見解です。うちのお弟子さんが、中川さんのお弟子さんでしたが、ルパン三世のサントラとかで、尺八のようなフルートを吹いていたっていうんですけどね。それより、反復してれば自然に鳥になるのですから。

ちなみに、フロイト的に、飛びたいという夢は、欲求不満らしいので、私やばいのかしら?

さて、木曜は母と横浜ららぽーとというところにショッピングです。商品券をもらったんですが、そこでしかつかえないらしくて、ドライブがてらいかねばなりません。母はいま代車を借りていて、そちらのほうが運転しやすいものだから、遠出をしたがっています。その帰りに、横浜ソフマップでIPADを予約するといっています。