記事一覧

レッスン心得 ジャズフルートのはじめ方 Ⅰ

2011.02.02

ファイル 121-1.jpg

■通用しない常識

フルートはジャズのメインの楽器ではありません。そのためか、ジャズ習得の常識が、なかなかフルートの人には通じない、あるいはジャズ習得が不器用だ、と言われることがよくあります。他のギターやサックスの人にとっては、あたりまえの練習法を、フルートの人はやらないのです。それでジャズが習得できる道理はありません。

その原因はフルートには手本がない、ないしは少ないということがあります。

ギターやサックスの人には、自分が憧れるアイドルのプレーヤーがいます。そのプレーヤーを必死にコピーし、技を盗み、同じような演奏をしようと努力し、その過程で、コードやスケールの習得法、アドリブの構成法、他のパートとの約束事、音感、等々、ジャズ演奏にとって、必要な基礎が、自然と身についていくのです。

ジャズの基礎は、戦前のトラッドジャズ(デキシーやスイングジャズ)と、戦後のモダンジャズ(バップやコンテンポラリージャズ)に、大きく分かれるのですが、まずトラッドジャズにフルートは皆無でした。

トラッドジャズがジャズの基礎であるのは、ジャズは即興がメインですが、その即興の基礎が、コールアンドレスポンスから来たものであったためです。

コールアンドレスポンスとは、サックスプレーヤーが即興的に吹いたリフ(フレーズの断片)を、すぐにトランペットプレーヤーがレスポンス(反応)として、追奏するという、黒人音楽の基本になっているものです。ところがこの時代に、フルートは登場していない。それは裏をかえせば、フルートでは、音量や音色が弱く、十分にレスポンスができなかった(したとしても、聴こえなかった)ということが最大の理由です。

戦後のモダンジャズは、こうした掛け合いではなく、ソロとして一人でアドリブを完成させるスタイルが主流になります。しかし、今度はドラムが細かい反応をするようになったため、ドラムスに音量や音色的に対抗できないフルートは、やはり当初は出番がなかったのです。

歴史的にフルートは、サックス奏者の持ち替え楽器として、味付けのようにでてきます。つまり名脇役として登場するのですが、そのために、それだけを手本にすると、今度はジャズの基礎が身につかなくなってしまうのです。名脇役は主役があってこその存在だからです。

このように、お手本が、ジャズのメインストリーム(主流の演奏)に存在しないため、フルート奏者はジャズを自発的になかなか習得しずらいのです。名脇役になるのは一番大変かもしれません。

レッスンでも、フルートの方は、なぜかエチュードをこなすのがレッスンだと思ってしまっている方がいます。しかし、他の楽器の方は、ジャズの習得では、まずそういうレッスンはやらない、と心がけてください。

■コードやスケール

ジャズはアドリブをするのが目的の音楽といってよいでしょう。そのためには、いくつかの約束事を身につけなければなりません。その第一歩が、コードやスケールなのですが、フルートに限らず、単線楽器である管楽器の人は、とくにコードの習得で難儀します。

しかし、考えても見てください。ジャズが使っている西欧音階には、12個しか音がないのです。コードもスケールも、いろいろな名称があって、とても12個とは思えないかもしれませんが、なるべく単純化して、覚えてしまったほうが得です。

結論から先に言うと、スケールもコードも実は2つの系列しか存在しません。コードネームでいうと、ドミナント(7)か、そうでないか、というだけの区別です。これはジャズが終止形が発明された以降の音楽だからです。

ドレミファソラシを7音階(ダイアトニック)といいます。その中でドが最初の音(1度)と認識されたのは、バッハ以降、モーツァルトがドミソという和音を発見してからのことです。ドミソ、ソシレ、ドミソというのは、少学校で礼をするときのピアノ伴奏ですが、これを終止形(カデンツァ)といいます。

ジャズはあくまでも、この二つの和音(コード)の違いを利用しているだけです。そして、オクターブの中には12個しか音ががない。つまり12の終止形を、フルートで覚えてしまえば、どんな曲でもアドリブすることができるようになるのです。

こうした、コード理解を還元法といいます。物事は単純化して覚えるべきです。とくにコードで伴奏(バッキング)するわけではないフルートという単旋律(シングルノート)の楽器での、アドリブは、コードは還元法で覚えるべきです。

そのためにも、さらにはスケール練習のためにも、五度圏を真っ先に覚えてしまいましょう。

■まずはメロディーフェイクから

ジャズアドリブの第一歩はメロディーをくずすことからはじまります。これをメロディーフェイクといいます。ジャズのソングブックをフェイクブックというのも、元メロディーは音符どおりではなく、フェイクしえ演奏するのがあたりまえだからです。

ジャズはコールアンドレスポンスから生まれたといいましたが、もう一つ重要なのが、元メロディーをフェイクする、という感覚なのです。

これは、ミュージカルソングなど白人が流行させたソングを、黒人ミュージシャンが華麗に演奏するときに、元メロディーを料理する必要があったことから生まれました。

そのフェイクの技法の中で、ジャズらしいシンコペーションなどのリズムや、アクセントを多用したことで、フェイクでもジャズらしさを感じさせることができたのです。

しかし、このメロディーフェイクが実は一番難しいともいえます。譜面をみてしまうと、四分音符は四分音符のまま吹きたくなってしまうものです。それを自分のリズムで、崩すというのにはコツがいるのですが、それこそがお手本を必要とするのです。